Erratas・カルチャーインサイト:第4408号 特集記事

ENo.98.ラブミュー♥パレイドリア / 作成:2026/08/26 22:51 / 更新:2026/08/26 22:57





『時代遅れなアイドル、ラブミュー♥パレイドリア』
――誰もが永遠と最適化を手に入れたこの街で、
いまだ生身の生肉のままステージに立ち続ける異端児がいる。

■ 「最新義体」のオファーを蹴った骨董品

先月、義体開発の最大手ハイペリアウト社が発表した最新義体プロモーション。そのイメージキャラクターとして白羽の矢が立ったのは、未だ生身を維持しているアイドル、ラブミュー・パレイドリアだった。
破格の契約金と永久メンテナンス保証、そして完璧な美と歌声を約束する新型義体への換装。誰もが羨むその提案を、当人はあっけらかんと断ったという。

「皆と会える時間が少ないのはさみしいですけれど。その分毎回、これが最高で、最後で良いって思えるくらい、皆に笑顔を届けて、笑顔をもらっています」
 ―――本人への独占インタビューより

 通常のアイドルであれば、義体によって24時間疲れを知らず完璧なパフォーマンスを供給し続けられるというのに。効率と永久性を追求する現代において、そのこだわりはもはや狂気の沙汰と呼ぶにふさわしい。

■ あえて旧時代を模した物理実物ステージへ

さらに世間をざわつかせているのは、今週末に開催されるハイペリアウト社主催のメガライブだ。
データストリームへのダイブが当たり前となった今、あえて過密再開発区の旧区画に巨額のコストを投じ、巨大モニターと昇降装置を備えた物理的な実物ステージを特設。ラブミューにパフォーマンスをさせるという。
オファーを蹴られたはずのハイペリアウト社が、なぜそこまでして旧時代の見世物にこだわるのか?
一部では「完全義体の優位性を引き立てるための、哀れな前座ではないか」との冷ややかな見方も囁かれている。

■ 市民・ファンの声:嘲笑と、奇妙な愛着

街を行く市民たちに、この「時代遅れのアイドル」について尋ねた。

「今どき生身なんて古臭いし、体温があると思うとちょっと不気味。でも、あの底抜けの愛嬌と笑顔だけはなぜか見ちゃうんですよね」(中央情報局勤務 / 義体歴140年)

「いつ壊れて死ぬかも分からない脆い身体で踊るなんて、危なっかしくて見ていられない。早く義体化して安心させてほしい」(総合工科アカデミー生 / 義体歴112年)

「作られたデータや金属ばかり見ている俺たちにとって、本物の生身が動く姿は、滅びた古代生物の標本を見ているような背徳的な魅力がある」(カルチャー批評家)


時代遅れか、
それとも最後のリアルか。

ハイペリアウト社の特設ステージで、生身のラブミューが何を見せてくれるのか。サプライズの余興も予定されており、最新義体・素体の発表ではないかとの予想もある。
今、全惑星の視線が、リアルステージへと注がれている。