大きな川、風船、そしてこどもたち.2
「バルーンおねえちゃん、今日から泊まりなの?」
孤児院のこどもの一人がバルーンランドのそばで首を傾げる。
バルーンランドはその女の子を抱え上げ、くるりと回ってから床に下して頭を撫でた。
この孤児院にいるのは、偏性変異者のこどもばかりだ。
この国、テン・イメイでは偏性変異者であるかどうかの種族検査が義務付けられており、しばしばそれが原因となって孤児が出てくることも少なくはなかった。
何を隠そう、バルーンランドも、偏性変異者であることを理由に両親に捨てられたのだった。
「そう! 私がいるから、もうなーんの心配もありませんっ」
「どういう意味ー?」
「ふふ! 大丈夫、大丈夫!」
満面の笑みをたたえ、ふたつピースサインを作る。
お調子者な様子は相変わらずで、こどもたちもそれが当たり前の光景だというような顔で見つめていた。
裏では、孤児院の“先生”との話し合いが行われていた。
こどもたちが見たことのないくらいの真剣な眼差し。
バルーンランドはお調子者で、表向きは何にも考えていないように見えるが、その実、とてもこどもたち思いであり、思慮深く、勇敢でもあった。
獣化症候群事件は、収まるどころか勢いを増していた。
孤児院の先生も、悪いことが起きる、と。いつかのホームレスの男と同じ考えを持っていた。
事実、再び法律の取り締まりが厳しくなるのではないかとニュースでも大きく取り上げられているほどであった。
何かあれば、こどもたちを頼む、と。バルーンランドはそれをただ、一つ返事で承諾した。
避難、または――亡命。
バルーンランドは水面下で、こどもたちとの逃亡生活の準備を進めた。
食料。衣類。そして死に物狂いで貯めてた多少の貯金。荷物は多くない方がいい。
だから小さめのカバンに、一人一つずつの逃亡用品を。
準備を進めれば進めるほど、逃れようのない焦燥感に駆られた。私はもう戻れないんだと。
そんな予感が、一歩、また一歩と着実に歩み寄っていた。