大きな川、風船、そしてこどもたち.3
獣化症候群事件が過激化し、内戦一歩手前まで陥った時のこと。
判断が遅かったかもしれない。バルーンランドはそう思ったが、準備自体は万全の状態。
難なく、こどもたちを連れて国から出ることに成功した。
孤児院の先生はというと、なにかあった時のために国に残ることにしたようだった。
向こうで失敗した時に帰る場所があった方がいいだろうと。
崖を下るのではなく、遠回りになるとしても安全な道へ。
そうして立ちはだかる国境――川を前に、絶望する人々を見ることになった。
「あの、一体どうされたんですか?」
「ああ……お終いだ……足止めだよ、この川は渡れない」
「渡れない? というと?」
聞けば、それはなにもかもをも飲み込む“川の怪物”であると。
説明してくれた男が腐りかけのパンを投げ捨てると、ずるりと、どこか不自然に水の底へと引きずり込まれていった。
ここには残魂がひしめいていて、それらが川を渡る邪魔をしている、というのは、この時はまだ明かされていない話であった。
それでもバルーンランドは考えた。引きずり込まれなければ、渡れるのでは。
近隣で焚き火を起こす集団にこどもたちを預け、荷物を下ろし、バルーンランドは川の前に立つ。
泳ぎは得意だ。何せ自分には特別な肺がある。
大きく息を吸えば、鮮やかなフォームで魔の川へと飛び込んだ。
ぐ、と下に引きずられる感覚。冷たくもあるのに、どこかぬるい水の中。
バルーンランドは顔を顰めたが、焦ることはない。
大きく息を、肺の中の酸素を吐き出し、水中で大きな風船を生み出す。
身体は風船の空気の圧で昇っていき――バルーンランドは水面から顔を出した。
ただ一人も顔を出すことは叶わないと思われていた川から、再び酸素を得ることに成功したのだ。
「――はあ、はあっ……これなら……渡れるかも、しれない……!」
バルーンランドは決意した。
七人のこどもたちを、全員この、魔の川の向こうへ渡らせると。
何日も同じ場所にはいられない。
食糧は減るばかり、体力も減るばかり。
行動を起こすのなら、迅速に、早急に。
少しの遅れが命取りになる――