日記5 - 忘れていたこと
──全部、思い出しました。
私、山羊じゃありませんでした。
本当は羊の獣人、でした。
群れず生きられないのにはぐれた、哀れな羊。
私の大学で、今までなかった登山サークルを作るって話を聞いたんです。
山登りは大好きで、普通の人達より少しだけ知識もあったし
なによりちゃんと友達ができるかなって期待して…入会しました。
でも、やっぱりあんまりうまくいかなくて。
サークルの他の人達はあんまり山に登ったことないのかなってわかって。
この計画じゃ無茶だよ、山は危ないこともあるんだよって言っても聞いてもらえなくて…
ある登山の日、私たちは…遭難しました。
いつのまにか登山道をそれて獣道に入り込んだみたいです。
危ない、と思ったときに忠告はしたのだけど、真面目に聞いてくれる人はいなくて。
あの時一人だけ正しい道を行くことができれば…あんなことにはならなかったのかな。
でも群れから外れる勇気は私にはありませんでした。
どんどん日が落ちてきて皆焦って。
ああでもないこうでもない、って言い争いながらがむしゃらに歩いて。
私は途中でバテてしまって、少し道の脇で休むね、って声を掛けたんです。
それからふっと、少しの間意識が飛んで。
気付いたら、皆いなくなってた。
ふらつく体とぼんやりした頭で、なんとか雨風をしのげる洞穴にたどり着いて体を横たえました。
水と食料は…日帰りの予定だったから大して保ちませんでした。
それからの記憶の大部分は…洞窟の壁にもたれて、壁を伝う湧き水を飲む、それだけの日々。
無駄に動かずに待っていれば助けが来るはず。
先に行った皆が助けを呼んでくれるはず。
そう信じて…
逃げ込んだ場所に水があったのは、今考えると不幸だったかもしれない。
それがなければ、もっと早く事切れていたはずだから。
日に日に自分の身体がやせ細っていくのを感じて。
<過度なダイエット>の画像なんか目じゃない、骨と皮だけみたいな体。
ずっとへとへとに疲れたような感覚で、身体が動かないから、食べ物を探しにいくこともできない。
ゆっくりと、自分が終わっていくのがわかって。
苦しかった。
苦しかった。
ずっとずっと、すっごく、苦しかった!!
どうして、皆私を置いていったんだろう。
少しだけ、足を止めてくれれば。少しだけ、大丈夫かって声を掛けてくれれば…
でも最期のとき、不思議と「私を置いていかないで」とは思わなかった。
もうこんな思いをする人がいませんように。
もう誰も見捨てられませんように、と、切実に願った。
──『選択』。
いいことを、思いつきました。
『現世』に戻りましょう。
帰って、あの場所 で。
彼らを恨み続けましょう──いえ。
私のような者がもういなくなるように。
誰かを置いてゆく、誰も彼も。
恨んで、恨み抜いて、呪い続けましょう。
もう決して、誰も見捨てないで、と。
私、山羊じゃありませんでした。
本当は羊の獣人、でした。
群れず生きられないのにはぐれた、哀れな羊。
私の大学で、今までなかった登山サークルを作るって話を聞いたんです。
山登りは大好きで、普通の人達より少しだけ知識もあったし
なによりちゃんと友達ができるかなって期待して…入会しました。
でも、やっぱりあんまりうまくいかなくて。
サークルの他の人達はあんまり山に登ったことないのかなってわかって。
この計画じゃ無茶だよ、山は危ないこともあるんだよって言っても聞いてもらえなくて…
ある登山の日、私たちは…遭難しました。
いつのまにか登山道をそれて獣道に入り込んだみたいです。
危ない、と思ったときに忠告はしたのだけど、真面目に聞いてくれる人はいなくて。
あの時一人だけ正しい道を行くことができれば…あんなことにはならなかったのかな。
でも群れから外れる勇気は私にはありませんでした。
どんどん日が落ちてきて皆焦って。
ああでもないこうでもない、って言い争いながらがむしゃらに歩いて。
私は途中でバテてしまって、少し道の脇で休むね、って声を掛けたんです。
それからふっと、少しの間意識が飛んで。
気付いたら、皆いなくなってた。
ふらつく体とぼんやりした頭で、なんとか雨風をしのげる洞穴にたどり着いて体を横たえました。
水と食料は…日帰りの予定だったから大して保ちませんでした。
それからの記憶の大部分は…洞窟の壁にもたれて、壁を伝う湧き水を飲む、それだけの日々。
無駄に動かずに待っていれば助けが来るはず。
先に行った皆が助けを呼んでくれるはず。
そう信じて…
逃げ込んだ場所に水があったのは、今考えると不幸だったかもしれない。
それがなければ、もっと早く事切れていたはずだから。
日に日に自分の身体がやせ細っていくのを感じて。
<過度なダイエット>の画像なんか目じゃない、骨と皮だけみたいな体。
ずっとへとへとに疲れたような感覚で、身体が動かないから、食べ物を探しにいくこともできない。
ゆっくりと、自分が終わっていくのがわかって。
苦しかった。
苦しかった。
ずっとずっと、すっごく、苦しかった!!
どうして、皆私を置いていったんだろう。
少しだけ、足を止めてくれれば。少しだけ、大丈夫かって声を掛けてくれれば…
でも最期のとき、不思議と「私を置いていかないで」とは思わなかった。
もうこんな思いをする人がいませんように。
もう誰も見捨てられませんように、と、切実に願った。
──『選択』。
いいことを、思いつきました。
『現世』に戻りましょう。
帰って、あの
彼らを恨み続けましょう──いえ。
私のような者がもういなくなるように。
誰かを置いてゆく、誰も彼も。
恨んで、恨み抜いて、呪い続けましょう。
もう決して、誰も見捨てないで、と。