これはとある世界の、神々の話

ENo.6.東雲渚 / 作成:2026/08/30 17:40 / 更新:2026/08/30 17:55
「なー、ヘラ
「何よ、ノア

顔に大きな蝶の飾りをつけた白と黒の和風ぜんとした2人が話している。

「俺が拾って来てた魂、知らないか?」
「─────────知らない」

まるで無くした万年筆の行方を問うような気楽さにヘラと呼ばれた黒い方は冷たい眼差しを向けて首を振った。

「俺が君以外に気がいってるからって拗ねんなよ」
「別に。それもあるけど、自分で拾ってきたものくらい自分で面倒見なさいよ」
「あはは、耳が痛い」

怒られている側に怒られているという自覚がないらしい。ノアと呼ばれた白い方は、耳が痛いなんて言いながらもヘラの肩に手を置いて困り眉で笑うばかり。──────さすがに、ため息が漏れた。

「てか、その拾ってきた魂ってこの間ノアが勝手に二柱目の"戦"に仕立てあげて壊してたじゃない」
「あれはコピーだよ。"忘却"の件もあるし、どうなるか分からないからって保険かけといたわけ」

自身の眷族である精霊と戯れながら、"生命の神・ノア"は事も無に言う。

「あの人間の魂を根本的にぶっ壊す訳には行かなくてな」




それは、15年ほど前の出来事。
東雲青葉という子供が、自身が不出来だと適当に捨てた『渡りの杖』に導かれ目の前に現れた。
ノアからすれば"捨てた物を拾った子供"
しかし他所から見れば、"神の遺物を勝手に使った不敬者"
「──────どうでも良いんだけどなぁ」
どうでもいいから、ある約束をした。
「神様のものを勝手に使ったんだ、本当は神罰で君は死ぬところだけど俺は優しいからね。その杖を、君にあげよう!
使用も複製も君の思うまま!!
だけど、なんのお咎めもないって言うのは良くない。俺のメンツにも関わる。
だから、君にひとつ約束っていう縛りをかそう。
君は、ひとつの世界に定住しては行けない。簡単なことだろう?
定住したらどうなるって?それは、破ってからのお楽しみさ。
ほら、もう行った行った。
ああ、この約束や俺と会ったことはちゃんと"忘れる"んだよ。
それじゃあ、バイバイ」
当時の"忘却"の力を借りて、そんな一方的な約束を取り付けて追い出した。

どうでもいいついでに、覚えのない約束でどの世界からも拒絶される子供の一生がどんな物になるのか見てみたくなったのがその約束の理由だった。





「そんな理由で記憶を奪った割には、その子供のこと見てなかったよね」
"忘却"にしてやられたんだよ。あの子供から元の世界の記憶をほとんど奪う代わりに、俺からもあの子供の記憶を奪いやがったんだ」
「……………あの時の"忘却"は、優しかったのね」

"こんな愉快犯に捕まってたら、もっと酷い人生だっただろう。"
言いはいないが、それはヘラノアも察している。

「それで?"戦"とその子供はどういう関係なのよ」
「"きょうだい"だってさ」

姉貴でー…………下はどっちだっけな?
本来の名前を忘れてしまったらしく響きが似てる言葉を当てて白翅舞蝶しらばねあげはと名乗っているらしい。
少し前、分霊を飛ばした世界でたまたま間接的に接触することで、思い出した記憶。未だところどころあやふやだ。

「アレの記憶は揺さぶった。そのうち思い出して俺のところに戻ってくる」
「あの魂は、その標………………いえ、生き餌ってわけね」
「ついでに言えば"戦"壊れた方の魂に統合させて壊れた部分を補強するつもり★」
「─────────────────」

一度完全に別の存在となった人間とそのコピーの魂。どちらも本人、同一人物であることからノアの言う統合による補強は可能だろう。
一度切り離されたそれは戻ることは無いが、本体と分霊───本体と化身などのような状態であれば、なんの問題もない。

「そのうちそのきょうだいから刺されるんじゃないかしら?」
「大丈夫大丈夫!"生命"だからな、俺は」

死にはしない。消えもしない。だからと言って─────────

「私がそういう意味で言ってると思う?」
「スミマセンデシタ…………」

ため息ひとつ、呆れたと呟いて。


「まあ、どっちにしろ早く探しなさいよ」
「ん?ああ、そうだな!」


うっかりどこかに転がり落ちて、別の世界の神のところにでも行かれていたら溜まったものじゃない。

「どこやったんだろうなー」

そんな、ノアの呟きがヘラの仕事室に響いたのだった。