選別

ENo.93.だれかのいもうと / 作成:2026/08/30 19:47 / 更新:2026/08/30 19:47



●録画開始


[カメラに白い髪とピンクのリボンが映り込む。]

撮影者:入ってるね。よし。

[撮影者が画角の中央にあった椅子に座る。撮影者はサイズの大きな白衣を着ている。]

撮影者:XXXX年X月X日、23時22分。メディカ・アルファ、録音開始。いつもの拠点で回してる。

[時計を確認した後、頷く。]

[数秒の無言。撮影者がしきりに自身の腕を撫でている。]

撮影者(以下、「メディカ」と記載):どうして録音を回す気になったのか、話す気になったのか。ボク自身わからない。

メディカ:贖罪だとかそういう──高尚なことは、ボクの考える事じゃない。そもそもこれは贖罪じゃない。

メディカ:吐露だ。




メディカ:ボクには最悪の兄がいる。

メディカ:お兄様、と呼ばされていたね。
お兄様は、ボクのことを恋人のように、娼婦のように、奴隷のように。
時々何を思ったか、普通の妹のように扱った。

[メディカが自身の白い髪に触れる。数本引き抜いて、地面に放る。]

メディカ:ボクは度々思った。「どうしてボクだけが」と。
どうしてボクだけ、こんな風に扱われて、生き地獄の中に放られなきゃいけないんだろうって。

[数秒の沈黙。]

メディカ:そんな時だ。ボクはお兄様の書斎で、本当のことを知った。
ボクは選ばれたんだ。選ばれなかった子が、4人もいた。

メディカ:お兄様──稀代の天才薬学者、ブルーメ・アルファのために。
その遺伝子を分ける「妹」が、5人産み落とされた。

メディカ:ボクは長女だったらしい。赤子が5人、いや、5匹、あいつの前に並べられて。
あいつはボクを指差した。「そのとき、たまたま笑っていたから」とかいうふざけた理由で。

メディカ:残りの4人?

[メディカが腕をさすりながら、笑い声を上げる。]

メディカ:ボクと同じくらいの生き地獄を味わって、それから燃やされた。
一人残らず、生きたまま。

[笑い声が大きくなる。]

メディカ:燃やされる妹の悲鳴を聞きながら、灰をコーヒーに溶かして飲んだそうだよ!

[笑い声が止む。挙動の静止。]

メディカ:知ってから、こう思った。ボクは一人じゃなかったんだ、と。
ボクは今まで、どれだけあいつを恨んでも、ボクだけの意思で動けやしなかった。

メディカ:でも、4人の妹の仇だと思ったら?




[メディカが椅子から立ち上がる。]

[カメラの焦点が白衣に合う。血と煤と泥と、その他判別できないもので汚れている。]

[メディカはそれをカメラの側で見せつけた後、白衣のポケットに手を入れた。]

メディカ:ありがとう、名前も貰えないまま、選ばれなかったボクの妹たち。

メディカ:お姉ちゃんに勇気をくれて。

[以下数分に渡り、笑い声が続く。]

[録画が切れる寸前、嗚咽に変わる。]


●録画終了