3:そして勇者は

ENo.28.エルディス・エアリアル / 作成:2026/08/30 21:33 / 更新:2026/08/30 21:34
なんで勇者の命を受けたかって聞かれると、「それでみんなが笑顔でいられるなら」って答えるだろうな。

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『……なあ、エルディス』

「ん?何?」

『お前はさ、例えば……例えば過去に戻ってやり直せる力があったらどうする?』

「藪から棒だね」

 ある時の夢のなか、酒場の一角で僕らは話していた。

『あくまで例えばの話だ。ほら、次行くダンジョンの奥に時間に関する魔導具があるって噂だろ』

「えっ、初耳」

『だぁーと思った』

 真っ直ぐな金の髪ごと額を抑えて、ディータは溜息を着いた。

『まあ、で、だ。』
『その魔導具のチカラに関する噂の中に、「過去に戻ってやり直せるチカラ」があるって話だ。』

「それでその例え話かぁ、うーん……」

デミグラスのステーキをひと口齧りつつ、僕は考える。

過去に戻って、やり直せるなら………

「………」


『……例えば、全滅したことを無かったことにすることもできるだろう』
『失敗をやり直すこともできる』

「…………」

『勇者になる前にも行ける。なにより』

『……… 死んだことすらやりなおせる

 手が止まる。

死んだことすら・・・・・・・やりなおせる。

…………そっか、これは夢だから。



『なあ、エルディス』『お前は』

「やり直さないよ。」

 そう言って彼の目を見た。
 広い海みたいな色をした目とあう。

「確かにさ、後悔がひとつも無いわけじゃないよ。」
「…………死んだ事に後悔がないって訳でもないし」

 けどその顔は、まるで、縋るような、願うような。そんな顔をしている。


『なら』「けど。」

「それでやりなおして………今までの旅路が無くなるのは、嫌なんだ」

 大変なことも、嫌なことも、辛いこともあった。
 そしてその果てに報われず死んでしまったと言われれば、そうだろう。

 けど。けどさ。それでも。


「それでも、その旅路と結果を、踏みにじるような真似はしたくない
「……これじゃダメかな?」

 少しの間の静寂。
 ふは、と声を出して笑いだしたディータ。

『っはははははは!』
『……そうだな、そうだった。お前はそういうヤツだったな』

 少し傲慢な、けども明るい笑い声。
 旅の中で、何回も聞いた笑い声のひとつ。

「ディータ」

『なんだ?』

「また、会おうね」

『………………………』


──────世界がぼんやりと溶けていく。

彼の姿も、ぼんやりと溶けて分からなくなっていく。

………俺は正しいことなんて、もう分からなくなってしまった

だからせめて、世界に勇者を────

エルディス・エアリアルを生かす。

それが全て終わったら、もし、次があるなら─────


 何を言ってるか、ぼやけて遠ざかっていく。
 真っ直ぐな金の髪が、一瞬琥珀色の癖毛にもみえて。

 けど、海の色をした青い目だけは確かにそのままで。


 世界がぼやけ、とけて、消えていく。


 その最後に、確かに聞こえた。

ああ、その時は────その時は、約束通り二人で世界を旅しよう


─────必ず、と。







これは、いつか勇者魔王が見た夢の話。
起きたら忘れてしまうような、狂気に消えてしまうような、夢の話。


そして最後の、勇者の話。