3:そして勇者は
なんで勇者の命を受けたかって聞かれると、「それでみんなが笑顔でいられるなら」って答えるだろうな。
****
『……なあ、エルディス』
「ん?何?」
『お前はさ、例えば……例えば過去に戻ってやり直せる力があったらどうする?』
「藪から棒だね」
ある時の夢のなか、酒場の一角で僕らは話していた。
『あくまで例えばの話だ。ほら、次行くダンジョンの奥に時間に関する魔導具があるって噂だろ』
「えっ、初耳」
『だぁーと思った』
真っ直ぐな金の髪ごと額を抑えて、彼 は溜息を着いた。
『まあ、で、だ。』
『その魔導具のチカラに関する噂の中に、「過去に戻ってやり直せるチカラ」があるって話だ。』
「それでその例え話かぁ、うーん……」
デミグラスのステーキをひと口齧りつつ、僕は考える。
過去に戻って、やり直せるなら………
「………」
『……例えば、全滅したことを無かったことにすることもできるだろう』
『失敗をやり直すこともできる』
「…………」
『勇者になる前にも行ける。なにより』
『……… 死んだことすらやりなおせる』
手が止まる。
死んだことすら やりなおせる。
…………そっか、これは夢だから。
『なあ、エルディス』『お前は』
「やり直さないよ。」
そう言って彼の目を見た。
広い海みたいな色をした目とあう。
「確かにさ、後悔がひとつも無いわけじゃないよ。」
「…………死んだ事に後悔がないって訳でもないし」
けどその顔は、まるで、縋るような、願うような。そんな顔をしている。
『なら』「けど。」
「それでやりなおして………今までの旅路が無くなるのは、嫌なんだ」
大変なことも、嫌なことも、辛いこともあった。
そしてその果てに報われず死んでしまったと言われれば、そうだろう。
けど。けどさ。それでも。
「それでも、その旅路と結果を、踏みにじるような真似はしたくない」
「……これじゃダメかな?」
少しの間の静寂。
ふは、と声を出して笑いだしたディータ。
『っはははははは!』
『……そうだな、そうだった。お前はそういうヤツだったな』
少し傲慢な、けども明るい笑い声。
旅の中で、何回も聞いた笑い声のひとつ。
「ディータ」
『なんだ?』
「また、会おうね」
『………………………』
──────世界がぼんやりと溶けていく。
彼の姿も、ぼんやりと溶けて分からなくなっていく。
『………俺は正しいことなんて、もう分からなくなってしまった』
『だからせめて、世界に勇者を────』
『エルディス・エアリアルを生かす。』
『それが全て終わったら、もし、次があるなら─────』
何を言ってるか、ぼやけて遠ざかっていく。
真っ直ぐな金の髪が、一瞬琥珀色の癖毛にもみえて。
けど、海の色をした青い目だけは確かにそのままで。
世界がぼやけ、とけて、消えていく。
その最後に、確かに聞こえた。
『ああ、その時は────その時は、約束通り二人で世界を旅しよう』
─────必ず、と。
これは、いつか勇者 が見た夢の話。
起きたら忘れてしまうような、狂気に消えてしまうような、夢の話。
そして最後の、勇者の話。
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『……なあ、エルディス』
「ん?何?」
『お前はさ、例えば……例えば過去に戻ってやり直せる力があったらどうする?』
「藪から棒だね」
ある時の夢のなか、酒場の一角で僕らは話していた。
『あくまで例えばの話だ。ほら、次行くダンジョンの奥に時間に関する魔導具があるって噂だろ』
「えっ、初耳」
『だぁーと思った』
真っ直ぐな金の髪ごと額を抑えて、
『まあ、で、だ。』
『その魔導具のチカラに関する噂の中に、「過去に戻ってやり直せるチカラ」があるって話だ。』
「それでその例え話かぁ、うーん……」
デミグラスのステーキをひと口齧りつつ、僕は考える。
過去に戻って、やり直せるなら………
「………」
『……例えば、全滅したことを無かったことにすることもできるだろう』
『失敗をやり直すこともできる』
「…………」
『勇者になる前にも行ける。なにより』
『……… 死んだことすらやりなおせる』
手が止まる。
…………そっか、これは夢だから。
『なあ、エルディス』『お前は』
「やり直さないよ。」
そう言って彼の目を見た。
広い海みたいな色をした目とあう。
「確かにさ、後悔がひとつも無いわけじゃないよ。」
「…………死んだ事に後悔がないって訳でもないし」
けどその顔は、まるで、縋るような、願うような。そんな顔をしている。
『なら』「けど。」
「それでやりなおして………今までの旅路が無くなるのは、嫌なんだ」
大変なことも、嫌なことも、辛いこともあった。
そしてその果てに報われず死んでしまったと言われれば、そうだろう。
けど。けどさ。それでも。
「それでも、その旅路と結果を、踏みにじるような真似はしたくない」
「……これじゃダメかな?」
少しの間の静寂。
ふは、と声を出して笑いだしたディータ。
『っはははははは!』
『……そうだな、そうだった。お前はそういうヤツだったな』
少し傲慢な、けども明るい笑い声。
旅の中で、何回も聞いた笑い声のひとつ。
「ディータ」
『なんだ?』
「また、会おうね」
『………………………』
──────世界がぼんやりと溶けていく。
彼の姿も、ぼんやりと溶けて分からなくなっていく。
『………俺は正しいことなんて、もう分からなくなってしまった』
『だからせめて、世界に勇者を────』
『エルディス・エアリアルを生かす。』
『それが全て終わったら、もし、次があるなら─────』
何を言ってるか、ぼやけて遠ざかっていく。
真っ直ぐな金の髪が、一瞬琥珀色の癖毛にもみえて。
けど、海の色をした青い目だけは確かにそのままで。
世界がぼやけ、とけて、消えていく。
その最後に、確かに聞こえた。
『ああ、その時は────その時は、約束通り二人で世界を旅しよう』
─────必ず、と。
これは、いつか
起きたら忘れてしまうような、狂気に消えてしまうような、夢の話。
そして最後の、勇者の話。