消天

ENo.24.麗妲の冥婦 / 作成:2026/09/05 09:50 / 更新:2026/09/05 10:37

 

煌きが、迸った。この身を穿って。── 否
身など有りはしない。元より何も有りはしない。
肉も、血も。骨も。心の臓さえ。
故に、霧散した。身体であったモノは。煌きが過ったことで。

この身は、"欲望" を糧とし象ったモノに過ぎないのだから。

・・・・・

・・・・

・・・

・・



……肉も、血も。骨も。心の臓さえ。
模倣品だ。人間のそれと同様に見えるモノは全て。
安心せよ。いずれも、貴様らが望む四肢に保たれている故な。

この身は、……魂。存在は、人間が発する欲望を血肉としている。
人間が活動に必要とするモノ全てを、欲望が担っていた。


  生き物と思えない?
      ── ご名答。余は "怪" とされる存在よ。


妖怪とは、人間の口伝が容を帯びた存在だ。

嘆き、苦しみ、恐怖。もしくは、"鬼が出る" などといった空虚な文言。
それらに準じた事象が寄り集ることで、実体化する。
更に実体化に至った事象を認識することで力を増大させる特性を持つ。

つまり、個体によっては凄まじい力を持ち得る可能性がある。
人間が多く抱く事象ならば尚更だ。機会の多さは増大の多さと同様故に。

だからこそ、其れは欲望の化身であった。
欲望を糧とし実体化した存在であり、欲望を血肉にしていたのだ。
この記録を見る、貴様には思い当たるやもしれぬな?

この存在は、兼ねて。欲望にしていた筈だ。

現実味の無い話だ。欲望の無い人間なんて。
三大欲求なんて言葉もある。疲れたから寝る、も欲望である。
故に、この存在の力は強大だった。── だからこそ、更なる力を求めた。

溢れんばかりの力は、容易く人間を真っ二つにし、
その内に至る全てを欲望の血肉で再現した。それは最早、人間だった。
とはいえ、真っ二つにされようとも即座に再生する化物に違いは無い。
所詮は再現だ。どれだけ血が流れようとも、身が爆ぜようとも。
根源たる "其れ" を死滅させない限りは滅ぼすことは出来なかった。

妖怪は名を持たない。強いて言えば、多くは人間が定義している。
動物や草木と同様と言えよう。つくづく人間というモノは小賢しい。
そんな欲望の化身、即ち "其れの名" を麗妲の冥婦という。


古くは "妲己" 。──…… 更には、"九尾" 。
九尾とは、この存在そのモノの姿を示している。
九つの尾を持った大狐。それこそがこの存在そのモノの姿だ。
かつてはそこいらの狐と同様であったが、多くの欲望を得この姿となった。
持つ力も強大であり、腕を振るえば嵐の如く。身を振るえば獣のよう。

故に、人間の模倣など容易いことであった。

所詮は血肉を潤わせる欲望を求める獣でもある。
つまり、そこに人間的な感覚は含まれていない。
ただより多くの欲望を得るために人間を学び、理解した。
この人間の姿もその一つであり、必要に応じて変形させ、
多くの知識、技術を身に着けた。……ある意味では勤勉といえるか。

利己的に利用することも含まれており、
時として外道と追及されることも。しかし心配無用。
簡単だ。手を振るえば人間は裂ける、それだけのこと。
まァ、次第にその機会は失せていった。"学んだ" のだ。

人間は、より強大な支配者には容易く平伏すということを。
ならば後は容易い。支配者を我が物にしてやれば良いのだから。
そして支配者を操り、より多くの "欲望" を発する命令を下す。

そうして、幾つもの国より欲望を得ていたのが、"九尾" の時節であった。
麗妲の冥婦は、それから幾つかの時の後のこと。
海を渡り、次なる獲物たるジパングへと参じた頃。


……その結果、この様にして討たれるに至ったが。


それが麗妲の冥婦──、欲望の化身という存在の幕引きだった。

恐怖は無かった。そも、何に恐怖するという話だ。
時が来たという他ない。ただ死に慨する消滅の時が己に巡っただけ。
この身は、元よりそう享受して来た。感情などという人間の道理を添えてくれるなよ?

男が準備した数百の肉、詰まる所部下たちはこの存在を確実に討ち取るために。
予想していなかった訳ではない。だが、所詮はこれもまた自然の一部に過ぎなかった。


           人間は、時として。
           容易く摂理を越えて行く。
          切り拓いて征く。 



嗚呼、そうだ。そうだろうとも。
己は所詮、欲望の化身なのだ。人間の欲望から現れ出た存在だ。
故に道理と言えよう。彼奴等に超えられて逝くこともまた。

害を滅する、討伐する。……討ち払う。それもまた欲望なのだからな。





さて。貴様らが最後に見出した欲望は、如何なモノか?滾らせるモノであるのであろうな?この余を。