招来

ENo.24.麗妲の冥婦 / 作成:2026/08/23 16:35 / 更新:2026/08/23 16:39
定かではない。余が捉えた最期の光景は。

余に向けられているのは、
この瞬間までに幾度と己を煌かせた忌々しい煌き。
そして輝きを放つ人間の姿が一つ、二つ、──……遥かに大勢。

余と向き合う二つの姿の後方には、数え切れぬ人間の姿がある。
元より興味はないが、手間をかけなければ正確には知り得ない数だ。
彼奴等は肉だ。余をこの場に縛り付けるための、肉。
余を二つの姿と対峙させるための肉であり、贄。

余は対峙している。この場の人間どもに。
彼奴らは仲間と共に、一つの姿と対峙しているということだ。

即ち、余は。……『敵』だ。彼奴等が対峙する必要を持ち得た、『敵』。

余の策を見抜き、悪と定義する者が存在している様だ。
なんという小賢しさよ。たかが人間如きが。
……だが、だからこそ。こうして対峙しているのだろうよ。
仲間たちの協力を以てして、余を縛り付けるための場を作り上げ、
己は元凶たる余と交戦しているのだから。

その一つが対峙している傍らであることは明白であろう。
この者は一線を画している。付き添うもう一つは恐るるに足らぬ。
この一つこそが。── この男こそが、余を滅するに尤も近しいのだからな。

本来の余であれば、この場から逃げ果せるのは容易い。
だが成せぬ。封じられている。縛り付けておるのだろうよ、結界といった所か。
肉全てを以て成す結界だ。ジパングというこの国にはあったな。
塵も積もれば山となる。その様な言葉がな。

「雌雄を決する時ぞ、冥婦」

そしてこの目が捉えた。男が一歩踏み込む刹那を。
発した言の葉とともに。幾度となく煌いた輝きと共に。

それが、余が捉えた 最期の光景・・・・・

定かでない。男の輝きが余を貫いたか、届いたかすらも。
次に視界が捉えたのは、『あわい』であったから。

「──……、……」

頬を凪ぐ感覚。……これはなんだ?傷を負ったそれではない。
あまりに悠長だ。先までの光景に比べれば、極めて。

力を込めれば、右腕は、── 右手は、容易く拳を象った。
つまり、人間を真似たこの体は正常に機能している。
問題が無い、何一つとして。輝きによる痕跡すらも。

「ふん。
 らしからぬ失態よな、阿倍野清冥?」

届いた筈であろうその言葉は、あの男の名。果たして届いているのか。
少なくとも、互いの位置は先とは異なっている様に見える。
『あわい』にあるのは己の姿のみ。二つの人影も、肉も無きだ。

「或いは、この状況こそが彼奴の術中か
 手は打たねばなるまいが。……まァよい」

「直ぐに呑んでやるとしよう」

そう言の葉を紡いでやれば、この地を踏み締めて征く。
言葉は届かずとも構わない。恨みや悔恨に興味は無いのだから。
ただ、……ふむ。宣告はしておいた方がよかろう?

恐怖は失せていないのだと。精々払えと、取り除けと。
恐怖への抵抗すらも、安寧を願う彼奴らの欲望なのだから。
故に、辿れば辿り着くだろう。……いや、着かずともこの身を潤わす一端となる。

生きている己の存在が在るのだ。ならば、己がために欲望を成すのは当然であろう?