大きな川、風船、そしてこどもたち.1
――偏性変異者獣化症候群。偏性変異者が突如として変異を起こし、獣の姿となって暴れる。そんな事件が起き始めていた頃だった。
バルーンランド自身は変わらぬ日常を過ごしていたが、出身である孤児院と、そのこどもたちのことが杞憂ではあった。
単発のアルバイトを終え、夜中の帰路に就く途中。知り合いの若いホームレスがバルーンランドの姿を見て、駆け寄って来た。
如何にも夜逃げをするような格好で、バルーンランドは少しばかり眉を潜めた。
「バルーンランド、バルーンランド……」
「はいっ、ナデスさん! バルーンランドはここにいますよっ。そんなに慌ててどうしたんですか?」
「しっバルーンランド、静かに……ぼくはこの国を出ることにしたんだ。このままではいずれ悪いことが起きる……」
「この国を、ですか。それでは、一体、どこに?」
「行き先は決まっている。アプセトだ。隣国にあるとされている、偏性変異者法律のない国だ」
「……アプセト」
ほんの少しだけ聞いたことがある。国を出て大きく西へ。最短距離で崖を大きく下れば大きな川があって、その向こう側に楽園のような国がある、と。
そうして思考を巡らせている間にも、ホームレスの男は急ぎ足でバルーンランドから離れていく。
「悪いこと、ですか」
なんだか胸がざわついて、バルーンランドは一旦、質素な自宅で荷造りをした後、孤児院へと足を進めた。