日々の食事に混ぜられる薬。

ENo.17.キュラソー / 作成:2026/08/27 09:30 / 更新:2026/08/27 09:33
それからの私は、両親が恋しいと泣くキュラソーを慰めながら過ごす日々を過ごしていました。
檻の中からは出られませんから、言葉だけの慰めにしか、なれませんでしたが……。
それでも、泣く年下の子どもをどうして放っておけるでしょう。

彼女の啜り泣く頻度が、徐々に少なくなってきた頃。
その異変は起きました。

私は段々と、物忘れが酷くなっていきました。
いいえ、覚えているのに、良くわからなくなっていくのです。
まるで薄皮がポロポロと剥がれていくように、何かが、私から欠けていって。
しかし、何が欠けたのかという事すら、わからなくなっていくのです。

檻の中に入れられるまで、腕を落とされるまで、私は職人を生業としていました。
私には私の生活があり、目標があり、望みがあったのです。

腕を落とされた時は、相当に、言葉に出来ない程に傷ついたはずなのに。
未完成であった作品に、二度と触れる事は叶わないと涙したはずなのに。
やがて訪れるとわかっている死は、とても恐ろしかったはずなのに。
無為に何も出来ずに過ごす時間は、確かに苦痛だったはずなのに。

それらを私は認識しているはず、なのに。
どうしてだか、それらに何も思わなくなっていくのです。
それがどうしてかすら、わからないのです。

それに強い恐怖を覚えるのに。
それもまた、薄れていくのです。

ああ、どうして。
まるで私が、私ではなくなっていくかのようでした。
いいえ、私は確かに私であるのに、まるで。

これでは。











どうか殺してくださいと神に祈りました。
私が私であるまま、何もかもを喪失する前に。
苦痛を、恐怖を、怯えを、完全に失くしてしまう前に。
これ以上、何もかもを奪われてしまう前に。

どうか、神様。
私を殺してください。