最後の日。

ENo.17.キュラソー / 作成:2026/08/29 02:41 / 更新:2026/08/29 02:41
ひどく眠たくて、微睡んでいた。
そんな中で、随分と大きな声に起こされる。

はい、はい、なんですか。
……生贄。蛇の神様に?

隣の檻の子か、私が?
あのー、ちなみに。生贄になるって、死んじゃうってことですよね?
あぁ、はい。ですよね。うーん。

そっかー。死んじゃうのかー。
困ったな、やだなー。

うーん。

でも、隣の子って年下の子みたいだ。
じゃあ、先にって差し出すのは可哀想かなぁ。

ええと、じゃあ自分が、って言わなきゃ。
私の名前はなんだっけ。えーと……。
そう、キュラソーだ。もうこれしか覚えてないから、多分これでしょう。

そう思って、口にしようとして。

「キュラソーにしてください」

って、そう聞こえたんだ。隣から。

おお、自分を差し出そうとしたら、差し出されちゃったな。
思ったのはそんなことだった。

どうやら、私に生きていてほしい人は、私しか居ないみたいだ。
じゃあ、仕方ないかぁ。うん。仕方ないよね。
それなら、私が先に生贄になりますよって言ってしまおう。
年下の子を犠牲にして生き延びるのは、なんとも後味の悪い話だ。
年下の子に差し出されたのは……後味の悪い話かな?
まあ、どうでもいいか。

そう考えて……あぁ、その後はあんまりね、ちょっと。
良い感じではなく、良い子のお話でもないから、後は想像で。

そんな感じで、人生は終わった。



この場の不幸は、いくつかあって。
唯一覚えていた名前を、うっかり自分のものだって勘違いしちゃった事とか。
ことんと胸の中に落ちた諦念が、隣の檻の彼女の言葉から耳を塞いでしまった事とか。
そのすれ違いに、文字通り一生気付かなかった事、とか。

多分そういうものだ。
お別れはいつも突然で、何かが掛け違えても元には戻れない。
この場も、定説に乗っ取りそういうものだった、というだけ。