6日目/もしもまた、

ENo.4.白波漂子 / 作成:2026/08/29 22:41 / 更新:2026/08/29 22:41
これは白波漂子の夢だ。しかし意識ははっきりしている。
自分の意思で体を動かせるし、物も見えている。声だって……


『よっ』

声をかけられて慌ててそちらを向く。そこには今までずっと側にいた人物が。
白く傷んだ髪に煌びやかな珊瑚と服装。耳と腰には魚のヒレが。
顔には痛々しい痣があって、右目は既に光が失われていて……

「湊灯……いや、美瀬……?」

すぐにわかった。自分の息子が目の前にいる。私の大切な……
どう呼ぶべきか迷っていると息子が口を開く。

『いや、呼びやすい方でいい。というか……美瀬って名前、本人はあんまり気に入ってなかったみたいだからな……』
「じゃ、じゃあ……湊灯って呼ぶね」
『ん、そうしてくれ』

「本人は」。その言葉ですぐに察した。目の前にいる息子はミサンガだ。
決して息子本人ではない。しかし息子の願いは確かに託されている代物だ。
今まで一方的にしか喋らなかったミサンガが、悲しそうな笑顔で話し始める。

『……俺さ、母さんに謝んなきゃいけねえんだよ』
『ずっとずっと、アンタの息子のフリして話しかけてたこと』
『本当は友達になれたはずの人を傷付けてしまったこと』
『……俺は、アンタの息子は、湊灯は異界でとっくのとうに死んでいるってこと』
『全部、全部謝んなきゃいけねえ』
『ごめん』


「そんな……いいんだよ」
「私嬉しかったよ、湊灯が会いに来てくれたみたいで……それにあなたは湊灯の願いそのものでしょ?」
「あの子のことはしょうがないよ、私と考えが合わなかっただけ。そういうこともあるよ」
「ずっと苦しいだけだった人生がその異界で変わったんでしょ?私はそのことがすごく嬉しいの」
「私が、私がもっとしっかりしていればあなたはこんなに苦しまなかったはずなんだよ」
「私こそ、ごめんね……本当に……」

泣きながら謝り始める漂子の顔を、湊灯が優しく上げさせる。
やはり、その表情はずっと悲しそうな笑顔で。

『いいんだ、いいんだよ、母さんのせいじゃない。』
『全部あの環境が悪かった、俺も母さんもその環境のせいで散々苦しめられた』
『だから母さん、謝らないでくれ……俺アンタの笑顔が見たい……』


その表情のまま、抱き締められる。
彼も死んでいるはず、ましては本人などではない。
だから体温はない、ないはずだった。
でも漂子には、確かな温かさが感じられた。
まるで生きてそこにいるかのような、温かさがそこに。

『そういえば、俺の異界でできた家族……1人そっちに来てたんだな』
『久しぶりに顔が見れて嬉しかった』
『俺が看取った後、後を追う形で俺も死んでしまったけれど……でも彼にはたくさんの幸せをもらった』
『俺、言ったろ?海に行けば俺に会えるって……海で死んだんだよ、俺』
『母さんと……綾辻さんが会いに来てくれたみたいで嬉しかった』


抱き締める力が少し強くなる。
繰夢にも時々話しかけていたのは、「また会いたい」と願っていた故だろう。

「……ねえ、湊灯」
「もしさ、もし、また会えるなら」
「その時は私、あなたに会いに行くから」

『……!』

「家族に、なりに行くから」
「何度だって生まれ変わって、湊灯のこと見つけに行く!」
「だから湊灯も!待っててね!」

『……………』
『……そうか』
『俺が異界に行く前の最後の願い、叶えてくれるんだな』
『待ってる、俺も巡り巡って会いに行く!約束だかんな!』


2人だけの、暖かい時間がそこに流れていった。
しばらく、お互いに笑顔で抱き合った。
離れ離れになっても、この2人は……確かに血の繋がった家族だったのだ。

『……これで、俺の役目は終わりかな』
「……そう、ありがとね、わざわざ私のために」
『ああ……そうなったら、俺はもう消える運命にある……』
『だからその前に……最後の仕事を、させてほしい』

「え?」

『まだ、言わなきゃいけないことが、ある気がする』
『それを、伝えたい……おれが、きえるまえに……』


少しずつ、目の前の息子の姿が薄れていく。
元々は息子の願いからできたものだ。託された使命が終われば消えるのだろう。
だから、消える前に。

「……わかった」
「できるだけ、頑張ってみるね」

『……ありがとう』
『まかせた、よ、かあ、さん……』



そうして、目が覚めた。

「……後悔のないように、しなきゃ」