アウトフォーカス:7

ENo.26.或る写真家 / 作成:2026/08/30 18:21 / 更新:2026/08/30 18:21
──あの日の朝がどうだったか、とか、あんまり覚えがないことだった。
いつも通りだった、と言うほかない。

いつも通り朝食を食べ。
何日かまた戻らないから、と口にし。
街の中で写真を好きにとって勉強しとけといつものように続けていた。

「じゃあ」


──扉をでる時にサングラス越しに彼女を見た。
色眼鏡。ただ、こちら側からは色彩がちゃんと見える特別性。
じゃなきゃ撮影の時困るから。
そういった、ずるいメガネをしていた。

ほのかに微笑みを浮かべて、手を振替されている。

「行ってらっしゃい、おじさん」

「…ああ、行ってくる」
「マテ子」

「誰がマテ子ですか」

「へいへい。マティ」

「よし」


──扉が閉まる音。

──死への片道だと、誰がわかると言うのか。

きっと分かりはせず。


──そして、ここにいると言う簡単な話だった。








地獄のような痛みだった。
一瞬で飛んでくれれば楽だったのに。
だんだんと横から押しつぶされているのがわかるのに逃げ場がない。
座席が折れる音がしたような気もするが、それは自分の骨だったのかもしれない。
中身も掻き回されて。
意識が飛んだ時にはもう。


──カメラは潰されていた。



生きなければいけなかった。
兄の代わりにならなければならなかった。
なれなくても、ならなくてはならなかった。
それが自分の役目だった。
感性が歪んでいること。それを恥じていた。
誰にも口にはできなかった。
真っ当な人間に見せたかった。
美しいものを美しいと口にする。
切り取った一瞬の輝きに目を細める。
そんな人間であるべきなのに。
惹かれるのは不浄の側。
だから全部表面だけなぞるようにした。
触れないようにして歩いた。
孤独を歩く。1人でいる。
どうせ死ぬ時は1人だと目を逸らす。
そばに置いたものから目を逸らす。


そうやって避け続けてしまったから。


「………ばかみてー…」


──あの子の質問に縦に頷けなかった。



「……」
「叔父さんは、わたしのかぞくですか」

「ずっと家に帰ってきてくれますか」

「お仕事の時は1人でももちろんいーですけど」

「家族みたいに、ここにずっと帰ってきてくれますか」



違うと返していた。


フォーカスは定まらない。
自分の方に一度も向けない。


──行き着く先は?