生前の記録その1『出会い』

ENo.11.宮野森 凛太郎 / 作成:2026/08/23 06:47 / 更新:2026/08/24 12:16
「……え」

気がつくと、僕は暗い夜の森に居た。
記憶が確かならば昨夜は自室のベッドで眠りについた、はず。
それが今は何故か虫が鳴き、緑が生い茂っていて草や土の匂いの中に居る。
自分の知っている森林公園か?と思ったがそれは家よりも遠い場所に在る。
もし自分が寝ぼけて外へ出たとしても、本来は車やバス等で訪れる距離の場所に徒歩で辿り着けることはないだろう。
と、なれば。

(……夢、かな)

それにしては思考がはっきりとしているが、明晰夢というものも有るそうだし。
きっとこれもそうなのかもしれない。
一先ず、この場にずっといても仕方ないので歩いてみる事にした。
動けば場面も変わるだろうと。
その時だった。

「子供がこんな時間に此処に居るなんて。珍しい事も有るものだね」

背後から声がした。
その声に振り向くと、ぼんやりと小さな人影が視えた。
夜の暗がりの中で顔はよく見えないが、声や背格好から相手もまた子供のようにも思えた。

「夜遅くまで遊んでてはいけないって親に教わらなかったのか?それとも家出かな?」
「えっと……」

どう答えたものか。悩んでる合間にも人影がこちらへと近づいてくる。
木々の合間から差し込む僅かな月明かりに照らされて、徐々にその姿が明らかになる。
自分と同い年くらいの暗い髪の色をした少年だった。

「気づいたら、此処に居て……」
「へぇ?」

僕の言う事が信じられなかったのかこちらの返事を鼻で笑うような、そんなニュアンスの声色だった。
実際に、相手の表情は笑っている。
でも、それは面白がって笑っている様子ではない。
僕はすぐに違和感を覚えた。

「まぁ、なんだっていいさ」

そういう彼の目は、笑っていない。
背筋がぞくりとした。いわば氷のような、冷徹な笑みだ。
月の光に照らされて彼の目が不気味に紅く光って見えた。
心臓が大きく脈打ち始める。まるで身の危険を警告するように。

「――君には死んでもらうからね」

そして僕の直感を確かなものとする一言が発せられ、彼が右手を振り上げた。
咄嗟に後ろに後退り、彼の手が僕の腹部をかすめた。
後ろに下がった場所に僅かな段差が有ったらしい。僕は思わず、その場に尻餅を搗く。
夢なのに、腰を打ってちょっと痛かった。

「……これを避けたのは君が初めてだよ」

何をされそうになったのかはわからない。
でも、先程の発言からして僕を殺そうとしているというのは本当なんだろう。

――このままここにいてはまずい。

これは夢だ。ここで彼に殺されたとして、本当に死ぬわけじゃない。
それでも、自分が殺されて終わる悪夢なんてできれば見たくないわけで。
恐怖に震える脚に鞭を打ち、立ち上がって逃げ出そうとする。でも。

「待て」
「えっ?」

突如として左脚に違和感を覚えた。
何かが左脚のふくらはぎに触れたそんな感覚を覚えたと思いきやその瞬間、立ち上がろうとした足が、体がその場に崩れ落ちる。

「あ……ッ、あ゛ああああッ!!!!」

足元を見れば、錆びた鉄の釘のような物が左脚のふくらはぎに突き刺さっている。
今まで感じた事の無いような激しい痛みが走り、僕はたまらず声を上げた。
先程の腰の痛みといい、この痛みといい、これは――

(夢じゃ、ない……!)

恐怖と激痛から視界が涙で滲む。
彼がこちらに詰め寄り、片膝をつく。
僕の事を見下しているような冷たい視線で、見つめられる。
これから本当に殺されるんだ。

そう思った時だった。

「やめたまえ」

何か黒いものが僕らの間を横切った。
目の前の少年の向こうから威圧感を伴う声がしたと同時に、大きな人影が近づいてくる。
僕を殺そうとしていた少年がそちらへ振り返り、舌打ちをしたのが聞こえた。

「……何しに来たんですか」
「人里から自警団が近づいている。今すぐ引き揚げろ」

脚の痛みに耐えながら涙を腕で拭い、近づいてきた人物を見上げる。
背の高い成人男性のようだった。人里?自警団?
それらが何のことかわからなかったが、話している内容から二人はきっと知り合いなのだろう。

「……コイツはどうするんです?」
「そうだな……」

視線を感じる。
男性が、僕の事を頭からつま先まで眺めていたのがわかる。

「我々の姿を視られた以上このまま此処に捨て置くわけにはいかない。一先ず、一緒に来てもらおうか」
「えっ?」

僕が少年と驚きの声を上げたのは同時だった。
男性はこちらへ寄って来ると、僕の体を抱きかかえた。

「……脚が痛むだろうが、城へ着くまで我慢してくれ」

そう僕に語り掛ける声は少し優しかった。
顔を見ると、少年と同じく赤い瞳をした大人の男性だった。
不満そうな表情を浮かべる少年を引き連れ、僕は男性に抱きかかえられたまま城とやらへ連れて行かれた。

これが、僕とその少年――ソリュードくんとの出会いだった。