【置き去りの記憶】

ENo.43.フィレンツォ・アルドフェック / 作成:2026/08/24 17:44 / 更新:2026/08/24 18:17
──遠い、遠い記憶がある。


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「…………僕を、おいていくの?」

 子供は、銀の髪の影に縋っていた。
 銀の髪の影も大人とは言えない見た目だったが、
 目の前の金髪の少年よりも歳上らしかった。

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「…………僕がダメな子だから、
 兄上は嫌になっちゃったの?」
「…………それは違うよ、フィレンツォ」

 銀の髪の影が、否定する。

「私が嫌になったのはお前じゃないよ。
 私は……私は…………」
「この国が、嫌いなんだ」

 銀の髪の影が、遠くを見るような目をした。

「私はこんな国なんか出て、
 自由が欲しいのさ」
「この国の王子なんてまっぴらだ!
 だから、出て行くことにした」

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「………………」

 幼きフィレンツォは、
 必死の顔で兄を見上げていた。

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「僕は……僕は置いてかれちゃうの。
 兄上は僕のこと、置いていくの」
「…………そういうことになるね」

 ねぇフィレンツォ、と。
 その兄の青い瞳が真っ直ぐに見つめた。

「…………私のことを恨むがいい、憎むがいい。
 私は最悪の兄さんさ?
 弟に全て押し付けて、何もかも捨てて国を出るんだから」
「…………ごめんよ」

 言って。
 止める暇もなく、兄⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎が窓から外へ飛び降りた。
 ふわり、冷気が巻き起こる。
 次の瞬間には、もうその影は消えていた。

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「…………………………」

 置き去りにされた幼子が、
 たったひとり、残される。

 その日、⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎は王族位を剥奪され
 存在しない第零王子とされ、
 フィレンツォが第一王子の位置となった。

 そしてまだ幼いその双肩に、
 大量の重荷が負わされることになる────。


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「…………大っ嫌いだ」

 星空見上げて思い出したのは、
 自分を置き去りにした第零王子。
 あの日も星が綺麗だった。

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「あの裏切り者め……卑怯者めが。
 お前のその身勝手のせいで、
 僕はどれだけ大変な道を歩むことになった」

 胸の内には、深い憎悪。
 僕はアイツを、許さない。

 彼は見ている。
 第零王子だったはずのその人が、
 他国の魔法サーカス団で楽しそうにしていたのを。
 違う名を名乗って、王族という重荷もなくて。
 仲間たちと共に、笑っていたのを!

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「ずるいよ…………」

 ぽつり呟いて首を振る。
 それでも、投げ捨てる訳にはいかないんだ。

 彼には、決めていることがある。

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「…………私は、あの裏切り者のようにはならぬ」
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「“覇王”の道具? 何だって良いさ。
 私は最後まで帝国に忠実であろう。
 逃げはしない、投げ出しはしない」

 帝政アルドフェック第一王子。
 みんなの“兄上”。それが今の座。

 か弱く臆病な“弟”なんて、もういない。

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「誰も置き去りには、しないから──」

 使命と責任を、全うするだけだ。